「そう言えば…悪いな。夏休み入ってからとか言ってたのに」
「……え?あ、ああ」
そうなのだ。あの時は確かに、夏休みに入ってから話がしたいと言っていたんだ。
だから私は、心の準備も中途半端に、慶兄の話を聞くしかなかったのだ。
だから余計に、何の話かも想像できなかった。
「でも…何で今日?」
「休みがズレてなあ…。だからもも達と行く時が予想してたよりズレる」
「そうだったんだ…」
ちょっと残念だな。みんなと一緒にいろいろ楽しみたかったのに。
「そんな残念そうな顔すんな」
「えっ、あ…だって、みんなと遊びたかったから」
「…まて、俺は遅れて行くだけだ」
「…あそっか」
大変だなあ…お医者さんって。
休みだってなかなかまとめて取れないみたいだし、こうして頻繁にズレたりする。
でも、病院で見る慶兄はとても生き生きとしていて、充実しているように見える。
「俺も何だかんだ帰るの久々なんだよなあ」
「慶兄忙しいもん」
「あいつは十分時間あるのにな、腹が立つ」
聞かなくても、それが瑠衣斗だとすぐに分かった。
何であんなに帰りたがらないんだろう?
未だにその理由は分からないけど、今回はちゃんと帰ってくれるみたいだし、大した理由もないんじゃないかな?
「自由人だもんね」
「自由すぎるんだって」
でも、その理由はやっぱり分からない。
慶兄に聞いても良かったのに、何だか瑠衣斗の話ばかりするのも嫌らしく思い、グッと飲み込んだ。
「んま、ゆっくりしてけよ」
そう言って笑う慶兄に、私も素直に笑って頷いたのだった。