「なに…言ってんの?慶兄…分かんないよ……」


喉が詰まったように、ろくに言葉も発せない。


目の前の慶兄が、水面下で見ているようにゆらゆらと揺れて見える。


やっぱり私は、慶兄を傷付ける事しかできないんだ。


何もしてやれないの?



結局は、自分が可愛いだけなんだ。本当に、酷い人間だ。






「俺にとっては、妹みたいなモンなんだよ。まあ…好きではあったけど、ももがここまで成長してくれたからなあ」


「せ…成長……?」


「そうだ。気持ちを表に出す事を怖がるな。俺のお陰でだいぶ出るようになったがな……顔に…っぶ」



堪えきれなかったように、吹き出したまま小さく笑い出してしまった慶兄から、目が離せない。


「…それが……リハビリ…?」


「ん、ん?そうそう。よく泣くようにもなったし…前と比べたらだいぶ素直にもなった」



そうなのだろうか……。

私には、分からない。



「だから、どんな関係になろうとも、俺はももと繋がりがあればそれでいい。ももが幸せなら」


「待って……私…私っ、慶兄に何にもしてないっ」



やっとの思いで言葉を吐き出すが、その拍子で頬に涙が伝った。


揺れて見えていた慶兄の顔が、水が抜かれたようにクリアになった。



「慶兄に甘えてただけでっ」


一度溢れ出したモノは、止まる事を知らない。


「慶兄を傷付けてばっかりでっ」


頭が締め付けられる。鼻がツンとする。


「慶兄の気持ちを利用してただけで……」


顔が熱い。顔だけではなく、体まで熱い。


「私…っ最低……っう…酷いんだょ……っ」



溢れてくる涙のせいで、目の前の景色が再び酷く歪む。