思わず目を見開いてしまい、慌てて瞬きを繰り返した。
ウエイトレスの言葉を丁寧に断り、その人物が自分へ向かって近付いてくる。
その距離が縮む程、ドキドキと胸が強く鼓動して反応する。
「ごめん。待ったか?」
「え?あ、ううん。私もさっき来た所」
「そうかそうか」
ゆったり歩いて席へと座る姿まで、周りの視線を独り占めしてしまう。
ニッコリ笑う慶兄は、いつもと何ら変わりないようにしか見えない。
「ご注文の方は?」
「ん〜…同じ物で」
「かしこまりました」
ふう、あちい。なんて言いながら、眉をしかめる慶兄は、やっぱりいつもと変わらない。
そんな様子から、慶兄から出る話なんて想像できない。
「顔赤い。歩いて来たのか?」
そう言って体を屈め、軽く首を傾げながら私の頬に触れた慶兄の手は、少しひんやりとして気持ちが良い。
「うん。そう遠くないし…いい運動かなって」
「倒れてたらここには居ないか」
そう言って笑う慶兄に、思わず頬に力を入れた。
「私なんかひ弱みたいじゃん」
「はは、そんな事言ってねえし」
笑いながら言う慶兄は、本当に優しい瞳で私を見ている。
ポンポンと軽く頬に触れ、慶兄の手が離れていく。
それと同時に、ウエイトレスが慶兄のアイスコーヒーを運んできた。
「お待たせしました」
「どうも」
私のアイスコーヒーは、もうすでに少し汗をかいている。
そんな様子が、何故か自分のようにも見えてしまう。
これから聞かされる話は、一体何だろう。
去っていくウエイトレスを、最後まで見送る事もできず、テーブルに並んだグラスに視線を落とした。