「慶兄によろしくな〜♪」


「後から一緒に行くって」


「ももー!!早く帰ってきてねー!!」



ジュリ本当に宗太の家に行くんだ。


みんなに軽く手を振りながら後ずさり、瑠衣斗に向かって軽く睨み付けると、にらみ返された。


そのまま背を向けて歩き出したが、背後からはまだ騒がしい声が聞こえてくる。



周りから見ると、相当うるさい集団に違いないな。なんて思いながら、慶兄との待ち合わせ場所へと急いだ。


「……暑い…」



暑い陽射しが眩しくて、自然と目を細める。


蜃気楼が道の先にもやもやと水溜まりのように見え、すっかり夏がやってきた事を思わせる。



うっすらと汗が額から滲み出でくる感じが、更に気温を高く感じさせるようで、暑い外気は息もし辛い。



纏わりつくような湿気を含んだ空気が、気分を沈めていく。


足を前に進める事すら億劫で、暑い陽射しを疎ましく思う。



慶兄に近付いていると思うと、胸がドキドキと鼓動する。


いつも会う時と違い、こんなに会いたくないと思う事は初めてだ。


想像もつかない事に、逃げ出してしまいたい。


そう思う私は、やっぱり何も変わっていないんだろう。



逃げ出さずに現実を受け止める事は、それなりの心の準備が私には必要だ。


深く考えるなって言われて、考えない人なんているんだろうか。


多かれ少なかれ、頭の片隅にはその事が付いて離れないと思う。



目の前の蜃気楼が揺れているのか、自分が揺れているのか。


私には分からない。