「寒いねー、もう十二月だもんね」
「そうだね。早かったな」
二人きりの校庭。辺りは真っ暗で、満月の光とわずかな星たちが私たちを特別な二人のように演出してくれた。
「クリスマス会成功するといいんだけどなぁ」
彼は空を見上げながらそう呟いた。
「そうだね…あっ」
その時、携帯が鳴った。
「今、何してるの?」
杏奈からだった。
私はなんて返していいのか分からなかった。隣には大好きな中里君がいる。しかし、その人は同時に杏奈の好きな人でもある。
「大丈夫?」
「あっ、ごめん親だった」
私は慌てて携帯を閉じた。杏奈に返せる言葉が見つからなかった。
「遅くなっちゃったもんね」
「そうだね、でも大丈夫」
「あっ家って土手から右?左?」
右は杏奈、私は左。
「左だよ。中里君は?」
そして彼は…。
「俺は右なんだ」
そう、杏奈と一緒の右。本当は知ってるけど知らない振りをした。
「あっそうなんだ!じゃあ、あそこでバイバイだね」
「うん、でも俺送るよ」
「え?」
「だって危ないじゃん」
胸の奥がじわっと温かくなって幸せな気持ちになった。