そうだよ。
わたしなんかより、蓮君の方がずっと重傷だったはず。
「オレの運動神経なめんなっつの。まともにぶつかってねぇよ」
「だって……だって……血は? 頭から血流してたじゃん」
「ああ……あれ? あれは……ペンキ」
「ほぇ? ペンキぃ?」
「ああ。律子さんに頼まれて買出し行ってたの。何に使うんだか……赤いペンキ。地面に落ちた衝撃で蓋が開いちまったの」
病院でシャワーを借りたらしい蓮君の頭や顔は、すっかりキレイになっていた。
まだ髪がパサパサだとブツブツ文句を言っているけど……。
「はぁああああ? 何それ? 何それ? 信じらんないっ!」
あたしは蓮君の肩のあたりをポカポカと叩いた。
「もぉ……本気で心配したんだから。死んじゃったかと思ったんだよぉ?」
「勝手に殺すなっつの。誰かさんの小説じゃあるまいし。“死にオチ”とかやめてくれよな」
ううっ……。
嫌味っぷりも健在だ。
確かにネタに困ると、とりあえず誰かに死んでもらう……ていうのがあたしの小説のパターンだったりするんだけども……。