だけど、いつまでたってもハチの唇は降りてこなかった。
代わりにあたしの顔の上にパサリと紙のようなものが降ってきた。
その途端、掴まれていた手首の圧迫感がなくなり、あたしの体は圧し掛かっていたハチの体重から解放された。
――?
あたしはソッと目を開ける。
あたしの目を覆っていたのは細長い紙のようなもの。
あたしは手を伸ばしてそれに触れた。
「これ……」
手に取ったそれを掲げてあたしは体を起こした。
それは見覚えのある封筒だった。
前に、蓮君がハチにあげたものだ。
確か中身は遊園地のチケットだって言ってた。
「開けてみれば?」
ハチがぽつりと呟いた。
ハチを傷つけてしまった。
あたしは彼に声をかけることさえできない。
そんなあたしの様子に気付いたのか、ハチは力なく微笑んでくれた。
「いいから。開けてみろって」