ハチは顔を近づけて、あたしの目じりに唇をあてた。

まるで涙を拭うかのうように……。


「日向、オレのものになって……? オレのこと好きになってよ?」


ハチがじっとあたしの目を見つめる。


その表情があまりにも切ないから、あたしは今自分が置かれている状況も忘れて、自分がどうしようもなく悪いことをしているような気分にさえなった。

こんなに思ってくれてるんだもん。

この気持ちに応えるべきなのかもしれない。

女の子はきっと自分を好きになってくれる人と付き合うのが一番の幸せなんだ。


だけど……。


「ハチ……ごめんなさっ……」


胸が張り裂けそうで……喉が痛くて、声が震えて……

もう上手く言葉にならなかった。


ハチは顔をしかめて呟いた。


「………っ…く……」


「ハチ……?」


「すげぇむかつくんだけど……。めちゃくちゃにしてやりたいぐらい……」


そしてその顔がさらに近づく。


咄嗟に横に向けた顔を強引にハチの方へ向けられてしまった。


またキスされるんだ……。

あたしは口元に力を入れて、ギュッと目を閉じた。