そして……


えーと…



「……小菅!」


えーと…




「小菅!!」


え……?


「はぃい!」


あたしは飛び上がるほど驚いて立ち上がった。

その途端、教室中が笑い声に包まれる。


「お前……オレの授業でボケっとするとは、良い度胸だな」


へ?


あたしはキョロキョロと周囲を見渡す。

教壇には、鬼のような形相の数学の田中先生。

田中先生は、うちの学校で唯一の20代の男性教師。

“男”で“若い”ってだけで、生徒の間ではひそかな人気がある。

たしかに、それなりにかっこいいんだけどなぁ……

性格がSっぽいっていうか、ちょっと怖いんだよぉおおお。


「次の問3、お前が答えろ」


田中先生は顎で黒板を指して、あたしに前まで出て来いと合図する。


「は……はい!」


と、慌てて手にした教科書は……英語だし!!

きゃああああ。

数学の教科書すら出してなかったよぉおおお。


田中先生の顔はますます冷たいものに変ってゆく……。

そして、じりじりとあたしに近づいてくる。

きゃあああ。

先生の顔、こんなにアップで見るの初めてかもー。

叱られているというのに、先生の精悍な顔立ちに見とれるあたし。

みんながかっこいいなんて言うのもちょっと頷けちゃう。

四角いメガネの奥の鋭い目つきに釘付けになる。

とたんに、あたしの頭の中を駆け巡る妄想。

意地悪数学教師と女子高生の恋愛……なんてのもいいかもぉ……。

そんな妄想に、思わずぽわーんとなって、頬を染めるあたし。