「後悔しないためなんだよ」


「……後悔?」


綾乃はコクンと頷いた。


「あたしね。振られちゃったけど、これで良かったと思ってる」


綾乃はニコニコと笑いながら話し出した。

「あの時、告ってなくて……もしも婚約の話を先生から直接じゃなくて、春奈から聞かされてたら……きっともっと落ち込んでた。多分、こんな風に笑って話せなかったと思うんだ」


「うん……」


「もしも想いを伝えることができないまま、先生が婚約して結婚していたら、後悔ばっかり残って、いつまでも引きずることになってたと思う。『どうしてあの時、告白しなかったのかな……』ってね」


「綾乃……」


「あたし、後悔してないよ。先生を好きになって良かったって胸張って言えるもん」


そう言って微笑む綾乃の目じりにはキラリと光るものが見えて、その笑顔は、まだほんの少し痛々しい気がしたけど……。

それでも、前を向いて歩き出した彼女はキラキラと眩しいぐらいに輝いているような気がした。

綾乃はちゃんと自分の恋に終止符を打ったんだね。

綾乃……頑張ったよね。