「オレ達の交際がばれたら、傷がつくのはオレじゃないよ。むしろ彼女の方だ。ほとんどの人は小柳先生を悪者みたいに噂するんじゃないかな? “若い男性教諭をたぶらかせたバツイチ女”……みたいにさ」


綾乃はその言葉に恥ずかしさがこみ上げてきて、頬がカッと熱くなるのを感じた。

それは今自分が思ったことそのままだったから。


「そうじゃないってことを証明して堂々とするには結婚しかないって思ったんだ。“デキ婚”なんてもってのほかだろ? だからできるだけ早くきちんとしたかった。自分の誠意を形にする一番の方法が結婚だと思ったんだ」


「先生……」


「……って、ごめんな。オレ、武田にこんな話聞いてもらうなんて、無神経すぎるよな」


そう言って、先生はほんの少し困ったように眉を下げて笑った。



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「……すごいね」


綾乃の話を聞き終わったあたしは放心していた。


「うん」


「なんかわかんないけど……田中先生カッコイイね」


綾乃には申し訳ないけど、あたしは田中先生と小柳先生に感動していた。

お互いに思いやる……ってこういうことなのかもしれない。

田中先生のために自分の気持ちを押し殺してでも身を引こうとしていた小柳先生。

そしてその小柳先生を守るために結婚を決意した田中先生。



「あたしさぁ……。失恋したのに、うれしかったんだぁ」


「えっ?」