先生は肩を震わせてクスクスと笑いながら言った。


「彼女も同じこと言ってたよ」


「へ?」


急に力が抜ける綾乃。


「オレさぁ。何度も振られてんの。付き合う時も、プロポーズした時も、同じ理由で断られた」


「先生、振られたの?」


「うん。『わたしみたいなオバさんとじゃ釣り合わないから』ってね」


「それでも頑張ったんだ。先生」


「まぁな。それが彼女の本心じゃないことぐらいわかってたからな。でも、付き合ってる時も、オレはバレてもいいやぁ……ぐらいに思ってたのにさ、彼女必死に隠すんだよね」


「そうなの?」


「『わたしなんかと付き合ってるってバレたらヘンな噂がたって、あなたの将来に傷がつく』ってね。必死で隠してくれてた」


「そんなんで傷がつくほどヤワじゃねぇのに……」なんて言いながら先生は二本目のタバコを口に咥えた。


「彼女は最初から結婚なんて望んでなかったんだ。オレのためにね」

先生はフーと大きく煙を吐きだした。

顔を上げてその先をじっと見つめる。


「だから結婚しようって思った」


「え?」