あたしはもうパニック寸前だった。


「綾乃! どうしよう、どうしよう……」


その時、今まで繋いでいた手がフッとほどけた。


……?


あたしは蓮君を見上げる。


蓮君はニッコリ微笑むと、あたしの頭にポンッと手を乗せた。


「ここで待ってて?」


「……蓮君?」


なぜかそこからの出来事がスローモーションのように感じられた。


蓮君は歩道のガードレールを軽く飛び越えると、そのまま車道に出た。


そして行き交う自動車を交わしながら、あっという間に車道を横切って、また向かいの歩道のガードレールを飛び越える。


あたしは彼の一連の動作を呆然とこちらからただ立ちすくんで見ていた。

やがて蓮君の姿もバスの陰に隠れてあたしからは確認できなくなってしまった。



――ブルルルルルル……


エンジンの音にハッとする。



――綾乃は?

――蓮君は?


発進したバスを見送って、あたしはヘナヘナとその場に崩れるように座り込んでしまった。




バスの吐き出した煙が視界からだんだんと薄くなり……


その後に残されていたのは



キョトンとした顔でこちらを見ている綾乃と、綾乃の側であたしに手を振る蓮君の姿だった。