見つけた。

あたし達がいる場所とは車道を挟んだ反対側の歩道。

停留所でバスを待つ人の列の中に……綾乃の姿があった。



「蓮君、いたっ。綾乃だ」


「どの子?」


「ピンクのバッグを持ってる、デニムのミニの子」


今度は逆にあたしが蓮君の手をぐいと引っ張った。


早く綾乃の側に行きたくてたまらない。


だけど反対側の歩道に行くには、ここから50メートルは先であろう横断歩道を渡らなければならない。

その距離が永遠に続くように感じてもどかしい。

おまけに今信号は赤だから、しばらくは渡れそうもない。


行き交う車の群れの向こうに、綾乃の巻き髪がチラチラと確認できる。

あたしはそれを見失うまいと必死に目で追う。


「早く、行かなきゃ」



そう言ってさらに蓮君の手を強く引こうとしたその時……


あたしの視界を遮るものが現れた。



無常にも綾乃のいる停留所にバスがやってきたのだ。


――どうしよう。

あのバスに綾乃が乗ってしまったら、もう追いつけないよ。


「やだっ。綾乃が行っちゃう!」