「帰るなら、後でちゃんと送ってくし……」


蓮君はガシっとあたしの両手首を掴んで放そうとしない。


「あたしなら大丈夫。一人で帰れるもん。蓮君、眠いでしょ? もう寝てよ」


「……に、言ってんだよ。こんな時間に危ないだろ?」


時刻は9時頃。

確かに一人で帰るのは危ないかもしれないけど……。

だけど、こんな酔っ払いに送ってもらうなんて……そっちの方が危なっかしいじゃない。


「ほんとうに大丈夫だってば。もう子供じゃないもん。心配しないで? ね?」


あたしはまるで駄々捏ねる子供を優しく諭すように言った。



「……じゃないから……」


ポツリと呟く蓮君の言葉は聞き取れなかった。


「え? なぁに?」


「ガキじゃねーから……危ないんだろぉ……」


蓮君はあたしの手首を開放すると、その手をあたしの頬に伸ばした。

あたしの緊張はピークに達して、顔が強張る。

そして、蓮君の指先が触れた瞬間、ピクンと体が反応してしまった。


「……日向……オレさ……」


蓮君はまっすぐにあたしの目を見つめて顔を近づけてくる。

その顔が少し傾き、あたしの顔に影を落とした。


「れ、蓮君……?」


その距離はどんどん縮まって……


――キスされるっ。

そう思った瞬間、あたしは思わず堅く目を閉じた。