あたしは手に持っていた鞄を無我夢中で振り回す。


「痛っ! ちょ……! おい! オレだって。日向!」


聞き覚えのあるその声に、動きを止めると……

すぐ目の前に蓮君の顔があった。


「☆◇○×※?△」


言葉を発したものの、何しろ口を塞がれたままなので、何言ってんのかわかんないような声が漏れた。


「ぷは……蓮君? なんで?」


ようやくあたしの口は解放された。


「つか、お前、はえーよ、足。さすが現役高校生。ハイ、忘れ物」


――カツン


蓮君は手にしていたCDであたしの頭を軽く叩いた。


「あ……」


それはヤマジシンイチのアルバムだった。


「わざわざ追いかけて届けてくれたの? それなら声かけてくれたらよかったのに……。てっきり痴漢かと思ったよ」


「かけてたよ」


「へ?」


「ずっと呼んでたのに、お前ぜんぜん気づかねーんだもん。叫ばれそうだったから、慌てて口覆ったんだよ」


「あ……。そ、だったんだ。ごめんね」


って、なに普通に会話してんの―――?


なんで蓮君、普通なのよ?


さっきキスしちゃったのに。

なんかこんな普通でいいの?

動揺してんのは、あたしだけなの?



「つか、お前さぁ……さっきの……」