前から歩いてきた人と肩がぶつかった。

謝りもせず、そのまま足早に去っていく。

見渡すと、急な雨のせいでみんな慌てて歩いているようだった。

こんな雨の中立ち止まっているのは、あたしだけ。


気づくとあたしの体は頭から足の先まで雨で濡れていた……。


指先にギュと力を入れて鞄の取っ手を強く握り締めた。

しっかりしろっ……あたし。

何かに寄りかかっていないと…足を踏ん張っていないと…すぐにでも崩れてしまいそうだ。



――雨で良かった。

頬を伝う雫にきっと誰も気づかない。

もっと顔を塗らしたくて、あたしはほんの少し顔を空に向けた。


雨は容赦なくあたりに降りそそぐ。


急ぎ足で行き交う人々の中。


惨めなあたしはただ一人、そこから動き出せずにいた……。