何であたしの名前知ってるの?
あたしは一度も名乗った事は無い筈――…


「慶華(きょうか)って誰ですか?」

案の定、稀癒は聞いてくれた。
あたしはキヨ、としか伝えて無かったから。

幼いあたしは完璧に自分の名前すら言えない。
だから周りの大人があたしをそう呼ぶからそれがあたしだと思っていた。


「慶華ちゃんはそこにいるキヨちゃんの事だよお。」

ハッとして壱貴に視線を向けた。

ニコニコとあたしを見つめる彼は。
全く悪びれた様子も無く。

稀癒はただ困った顔をしていた。
だって幼馴染みの本当の名前を自分の憧れの人が知っていて、しかもどことなく敵意に満ちていたから。