「やっぱり行くのか?」
こっちに連れてこられたときと同じオフホワイトのワンピース。
それに身を包んだあたしの隣で、シュリがポツリと呟いた。
「うん、やっぱりさ。パパにもママにも、きちんと理解してもらいたいから。
本腰入れてこっちに来るのはその後になると思う。迷惑かけちゃうけど、ごめんね」
「おまえが謝ることじゃない。無理やり連れてきたのはオレのほうだ」
額に手を当てて顔を隠すようにシュリは言った。
時間がなかったというのと。
あたしを魔族の手から守りたかったのと。
複雑な事情が重なっての今回の誘拐劇。
いろいろなことがあって。
それは楽しかったし。
辛いこともあったけど。
あたしは今、ここに連れてこられて、良かったと思ってる。
だって、もう少し遅かったら、あたしはもっと後悔したと思うから。
「シュリが気にすることなんて、なんにもないんだよ。むしろ感謝してるもん。シュリに会えたし。シュリを助けられたんだもん。自分が生まれたっていう国を見れたし、救えたんだもん。ま、実感はまだ、ないんだけどねぇ」
人間界(とこっちでは言われてる)という世界で過ごした時間が長すぎて。
あたしには自分が獣人だっていう実感が完全に欠けてる。
力を使おうと思ったって自由に使えるわけじゃないし。
仮に使えたとしても、使わない限りは一般的女子高生『天海ユナ』であることは変わらない。
それにここにいたっていう記憶はまーったく戻ってなんてこないから。