●吉田ひなこ●

佐々木と別れ、タクシーに乗り我が家に着いた。
暗い部屋に灯りを点ける。
視界は明るくなったが、心は切な海の底の底……。
暗くて冷たくて、何も見えない…明日が見えないよ……。

御内裏様と御雛様が私を見てる。

一緒に泣いてくれる?

無理よね、あなた達は無表情だもの。

夕方にラーメン啜っただけ…それから体は動かしているのに、お腹は全然空いていなかった。

冷蔵庫開け、缶ビールを飲む。

私は、遠い遠い昔を思い出す。

父と母の笑い顔…私の位置は、いつも二人の間だった。

父が右手…母が左手を持ち…ブラブラ揺れながら進む移動ブランコ……。

父と母の泣き顔…三人旅行最後の日、この時も、私の位置は二人の間。

去って行く父に…残された母…二人を繋ぎ止める力は…私にはなく、哀しき宿命に涙したあの日………。


その時、携帯の着信音で私は現実に戻った。

佐々木からだ!

「ひなこ?」

「佐々木君!どうしたの?」

別れた後に、こんな夜中に電話くれるなんて初めて…何があったの?