「俺ね、さっき彼女に振られたばっかで…ドタキャンさ。イタ飯屋予約してたんだけどさ…一緒に行ってくれる相手いなくて…もしよければ…これからの予定とかなかったら…ご馳走させてくれないかな…」

私は男の顔を見た。

マスクは並み以上、スタイルもスリム…でもこの男がいい男であろうが、不細工であろうが…そんな事は問題ではなかった。

この…今の…心の大きな穴を埋める何かが欲しかった。

  束の間でもいい。

相変わらず鳴かない携帯握りしめ、私は気合いを入れて立ち上がった。

「そう言うのなら…遠慮なくご馳走して貰うわ」

繁華街を抜け…男はラブホテルが密集する場所へと歩いて行った。

こんな所に、イタリア料理のレストラン?

本当にあるの?

首を傾げている私に、男は爽やかな顔で微笑んだ。

無駄のない顔の造り…颯爽とした美しい身のこなし…この男も…もしかしてホスト?

ドタキャンした女って、客だったのかな?

それとも、普通の素人さん?

「心配しなくても大丈夫だよ。そうは言っても、場所が場所だけに誤解するよな。でも今から行く所は、雑誌にも取り上げられてる有名な店だよ。随分前から予約がいるんだ」