●佐々木仁●

惚れられるってえのは…やっぱ楽だよな。

自分が惚れてしまうと…切ない、哀しい、苦しい、痛い…脳の皺から血がにじみ出てくるようだ。

あのむき出しの尻にお袋を取られてから…俺なりに学習を…それは歪んだ学習だったかも知れないが…習得した筈だったのに…女に恋慕を抱くなんて……憧れ持つなんて……やはり無情な事……。

もう恋なんて、まっぴらごめんだ……。

イーグルといると、お気楽安泰…どんなワガママでも通るし…俺のやりたいがまま……。

でもそこには、自分自身が存在していない事も俺は知っていた。

それは、心の伴わない繋がり……。

俺とイーグル…不幸せ者同士…何処まで行けど、二人に接点が訪れる事はない。

果たしてこれでいいのかと…自問自答するが…そこから抜け出す勇気も実力もない…その内考える事も嫌になり、飲み屋をさまよい歩く。

イーグルの金で、アホな時間の買い物をしていた時の事だった。

連れの岡野誠が、また仕事場を替えた。

オープンしたてのキャバクラ「アラビアンナイト」で、ボーイをしてるから、一度来てくれと言われていた。