お気に入りの喫茶店だから、と
連れていったのが間違いだった。

普段は
お茶しよう、なんて
恥ずかしがって言わないケンが
私を何度も誘う。


キレイな大人のお姉さん。
背筋が、しゃんと伸びていて
嫌味のない笑顔で
よく通る高い声で
マニキュアはしていないのに
光沢のある程よい長さの
整った爪をしていて

私にないものばかりだ。



ケンは一人でも
お店へ行っているようだった。

友達から聞いた。

そのことを私には言わない。
私も聞かなかった。
知らない振りをして、
休日の全てをデートの予定で
埋め尽くした。

それでもケンは
時間を見つけて
あのお店へ行っているようだった。


私のことは誘わないくせに。
一人で
私に隠して
行っているようだった。