大好きな、神谷君の綺麗な手は…あの子の頭に乗った。
大好きな、神谷君の茶色の瞳はあの子を捕らえている。
大好きな、あの笑顔もあの子に向けていた。
きっとあたしは自惚れていた。
その瞳も手も笑顔も…あたししか知らないと、自惚れていたんだ。
神谷君のあの子への気持ちは見ただけでわかった。
「失恋か―っまだ始まったばかりだったのになぁ…っ」
その後、動かない足を無理やり引きずって家に帰り、散々泣いた。
逆に言えば、始まったばかりでよかった。きっとすぐに忘れられる。
「忘れら…れ、る…っ」
その言葉と同時に浮かぶ、神谷君の笑顔に涙が流れて、まだ忘れないと確信した。
その日見た空は、恋をしたあの日の空よりも綺麗で…あたしはこの空も忘れないと思った。