「ひょっとして、千鶴か?」

「え?」

俯き加減に学食のミートソーススパゲッティを、
プラスチックのフォークで静かに啜る女の子。
もしやと思って声をかけると、
本人は驚いたように顔を上げた。

「やっぱ、千鶴か」

「れ、零二さんっ?!」

大きく目を見開く女の子。

「登校できるようになったんですか?」

「ああ、今日からな。
お前にも心配かけたな」

「いえ……、
元気になられたのなら何よりです♪」

そういって本当に嬉しそうに微笑んでくれたのは、
鳴瀬 千鶴(なるせ ちづる)。
歳はいっこ下の下級生で、俺のいとこでもある。

「今夜あたり伯父さん、伯母さんに電話するつもりだから、
よろしく伝えておいてくれよ」

「はいっ、両親もきっと喜びます」

千鶴の両親は姉さんの葬式などを、
心得を知らない俺の代わりに執り行ってくれた恩人だ。
他に俺の身元引き受け、
両親の遺産の管理などをしてくれている。
ご両親共に温厚な性格の良識人だ。