その往来を歩く、一人の警察官。

腰には西洋刀(サーベル)を下げている。

『剣客警官』。

当時の東京府警視庁のエリート警察官であり、幕末の二大派閥の一つ、薩摩藩出身の志士が、主にその職についたという。

警察は薩摩藩が、軍は長州藩が。

それがこの時代の派閥でもあった。

…だがこの剣客警官は、長州、薩摩のどちらの出身でもない。

派閥に属さないというのは、後ろ盾がないという事。

それでも彼は萎縮する事なく、堂々と警視庁にその存在を示していた。

年齢は四十過ぎ。

普通ならば下り坂である筈の年齢ではあるが、彼に限って言えば、そのような衰えは全く感じさせる事がなかった。

体つきもたるみがなく、引き締まった痩躯。

表情は穏やかでありながら、どこか鋭い眼光を秘めている。

その視線が、通りの隅々までを見渡す。

東京府の秩序と安寧を守る。

その強い意志が、警官からは感じられた。