その瞬間、周囲の気温が一度二度と低くなった。

四郎はそんな錯覚すら覚えた。

事実は違う。

気温が下がったのではない。

四郎が藤田に畏怖し、寒気を覚えたのだ。

…藤田は左手で刀を握り、大きく引き付けて構える。

平刺突(ひらつき)の構え。

藤田が『新撰組三番隊組長・斎藤一』であった頃からの得意技だ。

「まずは三割の力…いくぞ」

ジリ…と、地面を踏みしめ。

次の瞬間。

「!?」

まるで雄牛の突進の如く、藤田の平刺突が放たれた!

その速度は凄まじく、一足飛びに四郎の間合いを侵略する!

「くっ!」

四郎は条件反射で回避。

その脇を藤田の刀が通り過ぎる。

…信じ難い。

このような動きが、人間に可能なのか。

そう思えるほどの突進力だった。