そんな時に思い浮かべるのはあの男の事だ。

ただ佇んでいるだけで抜き身の刃のような殺気を放つ、あの男。

動乱の血煙の中を掻い潜って生き延びてきた、真の死闘の意味を知っている、狼のようなあの男…。

あの男ならば、この弛緩しきった己の心を引き締めてくれるだろうか。

緊張感ある戦いを渇望する、己の渇きを癒してくれるだろうか。

あの男…藤田五郎ならば…。

その感情は、愛する女に恋焦がれる感覚にも似ていた。