その所作は、まさしく山中に吹き荒れる旋風の如し。

師・嘉納治五郎をして『西郷の前に山嵐なく、西郷の後に山嵐なし』と言わしめるほどの破壊力。

これが後の世に伝説とまで呼ばれる、西郷四郎の山嵐であった。

「一本、それまで!」

審判の声で、客席から歓声が巻き起こる。

試合は西郷四郎の圧勝。

この勝利を以って、以降講道館柔道は、柔術にとって代わって武術界を席巻する事となる。

そして。

「……」

試合が終わった後も、四郎は試合場から客席を見ていた。

そこにはやはり、腕組みをしたまま四郎の姿を見据える藤田の姿があった。