それは四郎の足の指に秘密があった。

四郎は幼少の頃から漁船上で仕事をしていた関係で、足の五指の踏ん張りが非常に強く、また足の指を手のように動かし、物を掴んだりもできたという。

そんな彼の足は「蛸足」と呼ばれ、足指が吸盤のような強い力を持っていた。

その為に、彼は相手の足を刈る際の技の切れが他者よりも格段に鋭かったと言われる。

防御だけでなく、攻撃の際にも高い威力を発揮する。

それが彼の足の強さであった。

…何度組み付き、何度投げを仕掛けても、照島は四郎を投げる事が出来ない。

体を崩して寝技に持ち込もうにも、強靭な足腰により、四郎を倒れさせる事もできない。

ついには攻めあぐね、膠着状態に陥る両者。

「……」

四郎は静かに対峙したまま。

「……」

もう一度だけ、客席にいる藤田の顔を見た。