組み付いた照島は四郎の道着の奥襟と袖を掴み、鋭い動きで投げにかかる。

払い腰!

小柄な四郎はたやすく投げ飛ばされ。

「!」

宙で身を翻し、見事に着地した。

客席からどよめきが上がる。

「おぉ!」

「まるで猫だな」

その客席の言葉通り、四郎のこの動きは講道館の仲間内からは『猫』と呼ばれていた。

柔道では、投げられても背中から落ちない限りは一本とは認められない。

ましてや空中で蜻蛉を切って立つのであれば、敗北とは認められないのだ。

四郎の類稀な身体能力と反射神経があってこそ可能な技だった。

「ぬう!」

照島は激昂する。

更に組み付き、四郎の体勢を崩して技を仕掛けようとするものの。

「くっ!」

四郎の足腰は恐ろしく粘り強く、照島の強引な仕掛けにも体勢を崩す事はなかった。