振り向いた四郎もまた、薄く笑った。

「いえ…ただ、この東京府界隈に、かつての新撰組の組長だった方が警官をしているという噂だけは聞いていました。そして貴方の身のこなし、気配、何よりどんなに洗い流しても消える事のない、血生臭い匂い…もしやと思い、口にしてみたのですが…」

「……」

太平の世の武道家などととんでもない。

藤田はこの西郷四郎という男の認識を改めた。

この小僧、飄々とした顔をしていながら、とんだ食わせ物やも知れぬ。

「西郷四郎だったな」

藤田は背を向けた。

「その名、覚えておく。俺は東京府警視庁警部補、藤田五郎だ」

「…僕も…覚えておきます」

ニィッと。

もう一度笑みを浮かべる四郎。

その笑みを背に受け、藤田はその場を去っていった。