しばらくの追いかけっこが続き、二人は人混みを抜け、街中を出て、人気の少ない河川敷へと辿り着く。

そこで初めて。

「……」

立ち止まり、四郎は振り向いた。

「僕に何か…?」

やや怪訝な表情で藤田を見る四郎。

藤田は何を言うでもなく、ただ四郎を見つめる。

…ややあって、四郎が藤田の出で立ちを見て気づく。

「先程の悶着の件ですか…往来で騒ぎを起こした事は申し訳なく思っています」

潔く。

武道家らしく姿勢を正し、四郎は頭を下げた。

礼儀正しい。

まさしく好青年といった印象だ。

だが、藤田は彼を逮捕しようとしている訳でも、往来での一件を咎めようとしている訳でもない。

「西郷四郎…といったな。君はどこの人間だ?」

穏やかに。

しかしどんな些細な変化も見逃さぬ眼力を以って、藤田は四郎を見た。