「で、どこ行くんだよ」

「純子ちゃんが行きたいところならどこでもいいよ」

「ばかじゃねーの、ばーか」


悪態つきながらも、円らなどんぐり眼を細め笑う純子ちゃん。
僕もへへへと力なく笑った。

今日の純子ちゃんは、首に赤と緑のチェックのマフラーを巻いて、ぶかぶかの大きめサイズの白いダッフルコートで全身を防寒している。
コートが長い分下には何も履いてないらしく、コートからはすらっとタイツに包まれた細い二本の美脚が伸びていた。
いまの時代、ダッフルコートを着ているひとをあまり見かけないせいか、彼女の服装が新鮮で、そんな彼女を見ていると僕の鼻の下は自然と伸びる。

せっかく純子ちゃんはかわいいのに、隣に並んだ僕のお陰で、彼女のかわいさは十分に発揮されていないだろう。
そう考えると、なんだかすごく申し訳なくなってきて、僕は「なんかごめんね」と苦笑しながら純子ちゃんにいう。


「純子ちゃんの時間、無駄にしちゃったし……それに、僕、地味だし」

「雄太、お前本当にばかだろ」


弱音を吐く僕の顔を覗き込む純子ちゃんは、いきなり胸ぐらを掴んできた。
殴られる、とつい反射で目をぎゅっと閉じるけど、大した痛みはなく頬をぺしぺし叩く純子ちゃんの小さな手のひらの感覚だけがする。