そんな事、考えもしなかった。ただ楽しい明日があればそれでよかった。死と隣り合わせの義則にしてみれば明日があるかも定かじゃないのだ。
「僕は、生きたい。だけど、きっと長くても20までは持たないだろうね」
「そんな」
彼は悲しげに微笑んだ。義則を見る梓の瞳に涙が浮かぶ。
「泣かないで。これも運命ってやつかもしれないし、そうじゃなきゃ君には逢えなかった」
「……義則さん」
「でも、できることなら、父に甘えたり抱きしめてもらいたかったなぁ。……無理だろうけど」
義則の母と父は表向き離れていなければいけなかった。駿の母こそが本妻で婚約者だったからだ。婚約者がいると知りながら、母は恋におぼれ義則を見もごった。
父がどうしたかは知らないが、駿の母にとっては邪魔で仕方なかっただろう。おろされなかっただけよかったと言うべきなのだろうか。
「普通って……僕には手に届かないところにあるんだね」
「……義則さん」
気がつけば梓は義則を抱擁していた。ほほに涙が伝う。
「……辛かったんですね」
「うん……」
「これからは、あなたの人生だよ、好きに歩いていいんだよ」