「最初から決まってるとね、死も怖くないものだよ。毎日が何もなくて味気なくて最後ぐらいは違うのかなって思ってた。でもね、君に会って思ったよ。死にたくないって。もっと梓ちゃんやみんなを知りたい。世界を知りたいって」


ふさぎがちの瞼は哀愁に満ち溢れていた。握りしめられた手は震えていた。



「僕の世界は狭かった。それが普通だと思っていた。でも、世界はこんなにも広くて……僕は異端の存在だった」

「…………」

「平凡な世界にあこがれて今更戻れない過去を恨んだ。昨日母に冷たく当たってしまったよ。子供の幸せを願うなら生まないでほしかったって泣いてすがった。」


でも、と義則は一息置いて続けた。


「生まれなかったら、この感情もなかったのかなって思うと複雑で……」

「私は、義則さんに会えてうれしかったです。そりゃ、健康ならもっといいですけど……」

「生まれることに意味はないのかもしれないね。それから歩む道で意味を探していくんだろうね」

「そうかもしれないね……」