「それじゃあ、此処で」


車を降り、梓は言った。あの後車内の空気は重く、だれもがダンマリを決め込んで一言も話さなかった。あの和子の一幕が頭から離れないのは皆同じだろう。

(何故に)


気になって仕方がないが社内で質問するわけにはいかない。運転手に聞かれてしまうからだ。こちらから電話をかけるのも、周りの目が気になる。

暇つぶしに友達とのメールをやり取りするが、気にかかってしかたない。そんなとき、電話用の音楽が鳴った。


「もしもしっ!?」


自分でも勢いのある応答だったと思う。梓は寝ころんでた体を跳ね起きる形で電話に出た。


「……俺」

「小野瀬」

「兄さん、明日から高校行くって。勉強だけはできるっぽいから俺のクラスに入るって」

「義則さんが? でも大丈夫なの、歩けるの?」