「梓ぁ」

「あーはいはい」


暑い日差しが照りつける中、中岡梓は汗をぬぐい返事をした。女子の集団に走り寄り、「おまたせ」と言って学校へ向かう。そんな普通な光景を、毎日のように繰り返す。

茶色い髪をアップにして、少しカールをかけた髪を靡かせてワイワイと騒ぐ。

高校一年生。テストに追われながら毎日を充実して過ごしていた。少年との約束は忘れたわけではなく、たまに夢に見た。


――彼はどうしているだろうか。


「今日転校生来るんだって」

「男かな女かな」

「イケメンだといーなぁ」


彼女らは好き好きに騒ぎ立てる。


梓は内心あの少年だったらいいのに、と思った。転校生が来るたびにこうだ。そして未だ期待を裏切られないことはない。