「私どもも、なんとか未礼を家に引き止める努力は致しましたが…。
難しい年頃ということもあってか…、現状は、一目瞭然でしょうな…。
ほんとうにお恥ずかしいかぎりです」

心底困り果てたように、光寿氏は、傾けた首をかいた。


「義父との折り合いがうまくいってないのが原因なのでしょうか?」


私の問いに、光寿氏は、少し考えてから答えた。

「正直なところ、表だってはわかりません。
…未礼は何も言いませんので。
不満を口に出したりしない子でしたから…余計に、この老いぼれには、あの子が一番に望んでいることが何なのか見当もつかないんです…」


悲しげに言いよどみつつも、光寿氏は、話続ける。

「…ただ、家に居たがらないこと以外では特に目立った反抗もありませんでしたので…、
連絡もつきますし、…今回の見合いの時もそうですが、家での用事があれば、呼べばきちんと戻ってまいります。
ですので、しばらく静観することにしたんです」


「静観、ですか?」
やはり、教育放棄したということか…。


「…無責任だと感じておられるのでしょうな」

私の言い方に非難の色が混じっていることを気取られてしまったようだ。

「…いえ」
あわてて首を振りつつも、あとが続かなかった。


「いいんですよ。その通りですから」
光寿氏は、静かに微笑んだ。


「勇が生まれるまでは、未礼が家を継ぐ予定だったんです。
ですが今は、現社長の長男ということもあって、跡取りは勇ということになっています。
そして義理の父の再婚…。おめでたいことだとはいえ、
未礼が、居場所を追い出されるような気分でいることは確かでしょう…」
歯がゆそうに、唇を噛みしめている。
そして、ため息をつき、窓のほうを見やった。
しわの刻まれた穏やかな瞳が憂いていた。


私もつられて、おそらく華やかなイングリッシュガーデンが広がるはずの、暗闇の窓の外をぼんやりと見渡した。



「未礼はいずれ決められた相手のもとへ嫁に出さなければなりません」
言ってから、光寿氏は外を見ていた顔を私に向け直した。

私も姿勢を光寿氏に戻した。