見合いに来ていた父親とは別人の男性が、幼い未礼を抱きかかえている。


幼子の父親にしては少々年配のようにも思えるその男性は、清廉で、とげだたない穏やかさの漂う人だった。


「ええ。これが…親子三人で出かけた最後になりました。
…車の事故だったんです…」

静かに、しぼりだすようにつぶやき、光寿氏は、やり切れなさに満ちた面を伏せた。


「…そうだったんですか…」
それ以上言葉が続けられず、私は視線を幼い未礼に戻した。

写真は、幸せそうに笑っているというのに…。

だからこそ余計に、幼い未礼の悲しみを思うと痛ましい思いがした。


未礼は、その後、母親も失っているのだ。



実の父親の死後、母親は再婚した。
婿養子として垣津端家に入った義父が、社長としてこの家を治めている。
母親と義父の間に、勇が生まれたのだ。
その母親も今は亡い。



幸運にも私はまだ、身近な近親者の死に直面したことはない。
未礼はどんな気持ちだったのだろう。


私は未礼の母親に視線を移した。

「未礼さんのお母様のお顔をもっとよく拝見したいのですが」

動物園での写真に写る未礼の母親は、つばの広い帽子を目深にかぶっていたため、その表情ははっきりと見てとれなかったのだ。


光寿氏は、私の言葉に目を細め、テーブルに手をつき立ち上がった。

「結婚式のね、写真があるんですよ。ぜひご覧になってください」


光寿氏は私の前に、純白のウエディングドレスをまとった未礼の母親の写真を広げた。

写真を見て、はっとした。

未礼の母親は、未礼とよく似ていたのだ。
顔も身体も。


色白で、顎の細い丸型の小さな顔に、大きな瞳。小さく細めな鼻梁。薄い唇。
すらりとした華奢な骨格だが、女を強調した曲線を備えている体形。
どうやら母親譲りだったようだ。


「年々、未礼は母親に似てきましてね。
未礼もこんな風にドレスを着て、松園寺家にお嫁に行くんですねぇ」
しみじみとした声音で光寿氏は語りかけてきた。

私は、うなずいた。

向かい側で微笑む光寿氏の目尻と口元の皺が、言いようもなく優しい。




「…これは…」