男友達2人は、声のトーンは抑えつつも驚きは隠しきれないといった顔で言い合いながら、物珍しそうに私と未礼を交互に見ている。

女友達も携帯電話の画面から目を離し、値踏みするような視線を私によこした。


「啓志郎くん、ごめんね、騒がしくして」
おずおずと肩をすくめる未礼に、

「いいえ、構いません。彼らが驚くのも無理ありませんから」

私は落ちついた口調で返した。


「おい、未礼、てめぇ聞いてねぇぞ!
松園寺家と見合いって、お前ん家のどこに、んなコネあったんだよ!まじ玉の輿じゃん」

桧周がいまだ興奮冷めやらぬ様子で、未礼に詰め寄っている。

…この男はどうやら女性に対してもそのような無作法な口のききかたをするようだ。

未礼は、えへへ、と笑って答えた。

「ね~、あたしもびっくり。おじいちゃん同士が知り合いだったんだって。
言うも何も、あたしも、お見合いの相手知らされたの昨日の朝だもん」


「高3のお前はともかく、こいつはまだ小学生だっつーのに、見合いとかさせられんだな、金持ちって」

先ほどの廊下での初対面時と同じように、桧周は、私をじろじろと眺めまわしてきた。

「僕は逆に、松園寺家の子息ともなれば、小学生どころかもっと早く…例えば、生まれたときにはすでに許婚が決まってたりするもんだと思ってたよ」

九地梨も眼鏡を押さえながらしげしげと私を見る。


富裕層の子女が多い我が学院にとっては、“見合い”や“婚約”は、決して縁遠い話ではなかった。
現に、私の学友の中にも、婚約者がいる者は少なくない。

この私に、今まで婚約者がいなかったことのほうが、めずらしいことだったのかもしれない。


「おいしいじゃん、未礼」

釈屋久が、私がここへ来てからはじめて声を発した。

目線は携帯電話の画面に落としたまま、長い金髪をかき上げる。

何を見ているのか見当もつかないが、その手元の小さな長方形の画面の中には、彼女にとってよほど興味のそそられるものが映っているのだろう。

こちらに関心のないふりをしつつも、話はちゃんと聞いているようで、
「ちょうど適齢期だし」と初めて会話に参加してきたのだ。

まるでひとり言のようにも聞こえる釈屋久の言葉に、先に九地梨が同調の意を見せた。