「気にすんなよ。せっかく来たんだからさ」

隣の席で私たちの様子を見ていた桧周が、話に割って入ってきた。

「遠慮しねェで、用あんなら済ましてけよ」

そう私に言うと、桧周は、自分が腰を下ろしている机の椅子を引っ張り出して、未礼に目をやった。

「そうだよ、僕らのことは気にしないでいいからさ」

九地梨も、あとを押すように言う。

桧周と九地梨の視線は、興味深げに私に集中している。

これは親切心ではなく、好奇心だ。

私と未礼の関係について、説明を求めているのが丸わかりだった。

わずらわしく感じたが、仕方ない。

彼らは未礼の“友人”なのだ。
無下に扱うわけにもいかぬ。

私は短くひと息吐いてから、友人たちに向かって言った。

「このたび、未礼さんと婚約させていただくことになったのだ」

「昨日、お見合いしたんだ。あたしたち。すごいでしょ」

引き出された椅子に腰かけながら、未礼が付け加えた。

手にはまだ、携帯電話とソーセージを持ったままだ。

私も再び席についた。

「まだ本決まりではないのだが…」

「マジで!?」

言い切る前に私の声は、桧周の大きな声にかき消された。

「友基也、声」

九地梨が慌てて口元に人さし指を近づけ、“静かに”という仕草をする。


桧周の声に反応した他のクラスメイトが、ちらちらと遠慮がちにこちらをうかがっている。
…どうも遠まきにされている。

今日はたまたま見知らぬ小学生が混じっているから、という訳でもなく、未礼のこのグループは普段から他のクラスメイトとは馴染めていないような気がするのだ。

…-まぁ、身なりといい、他からは一線を画しているのは事実だが…。


「おいおい、マジかよ、すっげぇな!!」

「松葉グループとカキツバタ商事の縁談かぁ…。ビッグニュースだね」

「小学生とケッコンすんのかよ」

「結婚するのは成人してからに決まってるじゃないか…」

「わかってるっつーの、そんなこと!
オレが言いてェのは、すっげー年下じゃん、ってことだよ!」

「別に年下夫なんて珍しくもないよ」