「嬢チャンが待ってるもんな」

優留は、ペろりと肉まんを食べきり指をなめた。



近所の合気道教室に、私は徒歩で通っている。

帰宅する道すがら、優留にたずねた。


「それより聞きたいのだが」



「何を?」
もう一つ肉まんを食うかどうか悩んでいるのか、優留はコンビニ袋をのぞきつつ、気のない返事した。


「未礼の話だ。」


なぜ、未礼が私の婚約者に選ばれることになったのか。
どうやら優留は、知っているらしい。


「あぁ、それ。知りたいのか?」


優留は興味本位な顔で、じろじろと不愉快な視線を浴びせてくる。
私の心情でも探ろうとしているのだろう。



垣津端商事は、我社とも取引のある大企業であり、その娘の未礼との縁談話が持ち上がることは、おかしなことではない。

だが…


「政略結婚して、松葉グループに取りこむんなら、もっと他に条件のイイ家の娘も、いるっちゃーいるもんな。
それこそ啓志郎とも年のつりあう娘がさ」

私の思考をそのまま読んだように、優留は半笑いで言った。


仏頂面になりつつも、私は頭の中で、うなずいた。


理由を知ったからとて、今さらどうということもないのだが…。

祖父と父は、やけに未礼を気に入っている。
なぜなのだろう。


「私の問題だからな。知らないよりは知っていたほうがよい」






「うちのジイさんと、垣津端のジイさんは、学生時代の友だちだろ?」


家に帰るまでにある小さな公園に場所をうつした。

優留は、ブランコに座った。
私も、横のブランコに座る。

「それは存じている」


「垣津端のバアさん(未礼の祖母)も同級生でさ。
相当な美人で、いわばみんなの憧れの的、マドンナ的な存在だったようだ。
狙ってる男の数はハンパなかったみたいだけど、射止めたのは垣津端のジイさんだったってわけ」


優留は、袋から取りだした肉まんにカラシをひねりだした。


「その程度のことなら…」


「まあ、最後まで聞けって」

聞け、と言いつつ優留は、肉まんにかぶりつき、食べながら口を開いた。


「お前んちにさ、一匹だけ白い鯉いるだろ?」