「啓志郎、風邪か?」


朝食時に、優留が私の顔をのぞきこみ、面白そうに笑った。


「誰のせいだ」
咳払いをし、味噌汁のお椀を手にとった。


「鼻声になってるね。熱はなさそうだけど…」

念のため、熱を測った体温計を見ながら、未礼は私の額に触れた。


「鼻とノドにきているようだ。
学校を休むほどではないが、今日はマスクで登校だな」


昨晩、冷たい池の中にいたというのに、優留はピンピンとしていた。

朝早くから、日課のジョギングをし、シャワーをあびてから食卓についている。

朝は起きるだけが精一杯の未礼とは大違いだ。
それでも最近は未礼も3度ほど呼べば起きてくるようになった。
進歩だ。


「ケケケ。弱っちょろい奴だな」
優留は笑いながら、「いっただっきますっ!」と勢いよく両手をたたき、玉子焼きを箸できって口に放りこんだ。

小憎たらしい女だ。




「家に戻るよ」


自分の母親に見合いを壊され、昨夜は家に帰りたくないと言っていたため我が家に泊まらせた。

「今夜も我が家に泊まるか?」と心配になってたずねてみると、優留本人はいたって平然と焼き魚の骨をとりながら答えた。


「帰るよ。
母さんに真正面から文句言ってやる。
ま、間違いなく取り入ってもらえないだろうけど。
それでも、気に食わないことがあるからって、逃げるようなマネするのは、私らしくない」


自らの誇りに忠実な女だ。
さすがは私のいとこ。

嫌なことは翌日に持ち越さない。が優留のポリシーだ。
気持ちの切り替えの速さと前向きさは、私も見習わなければならぬ。









「合気道って楽しいな」


後日。
合気道に興味を持ったのか、優留は私の通う道場の一日体験に来ていた。


その帰り道。


「できれば習いたいんだけどなぁ、今、手一杯だからなぁ〜。
中途半端になっちゃうのは嫌だし。残念だけど、あきらめるかぁ」

コンビニで購入した肉まんにかぶりつきながら、優留は眉を下げ無念な顔をした。


「食うか?」

あと2個肉まんの入った袋を私にすすめる。


「いや、帰ったら夕食だから、遠慮しておく」