優留は、うなずき、ため息をついて言った。

「…確かに。私たちの地位なんて、もろいものだ。
少しのことで揺るがされて、大慌てして。
大人の事情や意見に一喜一憂して。
何から何まで確実なものなどない」



二人とも、『家』という手の平の上では、ただ転がされるコマでしかないのだ。


私は、小さく笑って同意した。

「翻弄されて、ジタバタして、実に情けのないことだな」



それでも、私は、…私たちは、高みを志す。


行くべき道は、そこしかない。



初めて優留との間に、“分かり合った”空気が流れた気がした。




「啓志郎、お前の言うことも一理あるって気づいたよ」


「何がだ?」


「前に言っただろ?
後継者になるのに必要なものは何なのか…って」



後継者の選出条件は、
“後継者は、個人として誰より優れているべき。
単体で、相応しくあるべき。”
これに尽きると私は思っている。

この考えこそが、日々の精進の励みなのだ。

優秀であれば、おのずと道は開ける、と。



対して優留は、処世術が一番大事であると、言っていた。

だから、亀集院家との縁談話を祖父に進言した。

縁談は白紙になったが、まとまっていれば、優留は後継者争いにリードしたことだろう。




「処世術も大事だが、結婚相手一つで地位が左右されるなんて、情けないことだな。
例え独身であっても、後継者として相応しい、際立った何かが私は欲しい。
つくづくそう思ったよ。
今日の私は、カッコ悪かった…」

優留は、伏し目がちに、つぶやき、

「自分の能力で判断された方が、気分がいいよな…」と、私の目を見た。


「その通りだ」
私も、優留の目を見て言った。



「ま。まったく同等の能力ならば、最後にモノをいうのは処世術だけどな」


「…否定はせぬ」




優留の顔は、すっきりとした、いつもの勝ち気な表情に戻っている。


「母さんの思い通りにはさせない。
鯛ヶ崎とは見合いしない。
私が目指すのは、松園寺家の当主だ。
啓志郎に先に後継者宣言をされたとて、覆す方法はある。
私自身に後継者としての器があるなら、な」