「優留!」
「優留ちゃん!」

私と未礼は、慌てて水面をのぞきこんだ。


池は、優留が飛びこんだ付近は、さほど深くはない。
余裕で足はつくはず。


優留もすぐに顔を出した。
ちょうど腹の下あたりまで水につかっている。


まだ気がおさまらないのか、発狂したように奇声をあげながら、腕を振り下ろし水面を力任せにたたきつける。


水しぶきが私の身体にかかる。

私は、優留を止めることができなかった。



「あたしタオル持ってくる!あと、お風呂の用意も!!」

未礼が一目散に家に走る。



叫び、水しぶきをあげ、少し気が済んだのか、それとも疲れたのか優留は、動きをとめ、肩で息をしている。

それから天を仰いだ。


私からは、優留の後ろ姿しか見えなかったが、優留は涙をこらえているのかもしれないと思った。


かける言葉につまる。


私と、優留は、同じだ。


私は、次男であることに苦しんだ。

しかし、優留は第一子にも関わらず、“女”であることに、おそらくは私よりも、ふに落ちぬ思いをしてきたに違いない。


「優留」

とにかく池から上がるよう、せかすことしかできなかった。




「私と亀集院三男坊との見合いがなくなって安心しただろう?」

優留が振り向き、出し抜けに質問してきた。

泣いてはいないようだ。



「…正直に言うと、白紙になってよかったと、脳裏をかすめたのば事実だ」


優留と亀集院の婚約が、一番不都合だったのは、私だ。


私の答えは、優留にとっても予想通りだったのだろう。

優留に、私を非難するような様子はない。

「正直だな。
ま、そこがお前の良いところか…」


「言い訳に聞こえるかも知れぬが、かすめたのは一瞬だった。
だって、そうだろう?
例え今、後継者になれたとして、何の保証にもならぬ。
地位など簡単に覆されるのだ…」


ここしばらくで、よくわかった。

優留の存在で、とたんに危うくなったように、裏を返せば、今の私の地位などその程度のものでしかないということだ。