叔母上が、優留の見合い話を潰したというのか。



「母さんは、私と鯛ヶ崎グループの長男との縁談を進めたいんだ。
亀集院じゃなくってさ」


「鯛ヶ崎…」


くるりと振りかえった優留は、私にむかって皮肉げに唇の端を持ち上げて微笑した。


「スゴイだろ?
後継者の長男は、今年で19歳っていうから、見合い相手としたら文句なし、だ」


「亀集院家とも引けは取らぬ。
…だが、長男との縁談ということは…」



優留の眉間に、強い憤りが現れた。


「そうだ。母さんは、私を嫁に出したいんだ。
鯛ヶ崎グループの次期代表者夫人に…って。
私の意見を無視して勝手に動いてる。
親父の仕事を恵留に継がせようとして」



優留には、11歳になる弟がいる。
名は、恵留(メグル)。



「私を松園寺家から追い出すつもりなんだ。…あのババァ!!」

優留の顔つきが、いっそう険しくなった。



「優留…。
…だから焦っていたのか?
鯛ヶ崎との縁談を決められてしまう前に…」


亀集家の三男坊を婿にとる話を決めようとしたのだ。

嫁に出されてしまえば、松園寺家の当主になることはできない。

だから優留は、なりふり構わず亀集院三男坊の会社にまで乗りこんだのだ。



「後継者争いをする舞台にすら立てなくなってしまったら、元も子もないからな」

渇いた笑い方。
優留は、地面をけった。


「亀集院の三男坊はもう無理だろうな…。クソ…またふりだしだ。別の婿養子探さないと。
けどまたババァにジャマされる…、あ゛ーー」

言葉尻がイラ立っている。

「私は一体何なんだ!女ってだけで…、ただそれだけで…っ、ただ男ってだけで何で優遇される?!何が違うっていうんだ!」

ふりしぼるような語尾。
優留は、頭をかきむしり上を向くと、突然大きな声で叫んだ。


「あーーー!!ちくしょーー!!!」


抑えきれない、感情を吐き出すように。


そして、叫んだ勢いのまま、走り目の前の池に飛びこんだ。


止める間もなかった。


優留の身体は、大きな水しぶきをあげて水面に消えた。