「お騒がせして大変申し訳ない」

「君は…?」

「申し遅れました。
私は松園寺啓志郎と申します」


「ああ、君が…」

三男坊は、私の全身を目視した。


「噂によれば、松園寺家の継承権第一位って君だよね」


「…」


「君も、すんなり後継者に決まるといいね。
優留お嬢さんは、自分がトップに立ちたいようだけど。
松園寺家の内部も、色々と、ごちゃごちゃとしてるんだね」


私は、会話をしているつもりはないのに、三男坊は、意外と口数が多いようだ。
黙っている私に、話し続ける。


「松園寺…正直興味なかったんだけどな。
松園寺家の覇権取りも、以外と楽しいかもしれないな」


「?!」

今の台詞…どういう意味だ?


三男坊は、ニッコリと笑った。
何かを含んだような笑い方だ。



直感的に、食えない男だ。
と思った。





エレベーターを降り、ビルの外に出ると、先に外に出ていた未礼と優留がビルの入口付近の植え込みに座って、私を待っていた。


優留は、考えごとでもしているのか、無言で眉間に力を入れたまま、足元をじっと見ていた。



「優留、先に家に送ろう」


車に優留を乗せると、優留は、小さな低い声で反論した。
「…家に帰りたくない」と。






「外は冷えるだろう。部屋に入ったらどうだ?」


優留は池のそばに立ち、無言で水面を眺めている。

私の問いかけにも反応しない。


自宅に帰りたくないと言うので、今夜は我が家へ連れてきたのだ。


すっかり気落ちしてしまったのか。
…無理はないが。



私と未礼も何となく室内に戻れず、しばらく優留とともに池の前で立ちつくしていた。




「…ジイさんじゃない…」


フイに独り言をいうように、優留が口をひらいた。


私と未礼は反射的に優留を見る。


優留は、池を眺めながら、無感情な口調で続けた。


「見合いを白紙に戻した犯人は、うちの母さんだ。
証拠はないけど…間違いない」


「叔母上が…?」


優留の母。
私の父の弟の奥方だ。