「なん…だと…?!」

優留は目をぱちぱちと見開き、言葉につまった。


「縁談は白紙にしないか、って打診してきたのは松園寺家のほうが先だったよ。
断ってくれないか、ってさ。
見合い話を持ちかけてきたのはそっちのくせにさ。迷惑な話だよ、まったく」


「うそだ!!」

「信じるかどうかは君の勝手だよ」


「誰がそんなことを言ったんだ!!」

くちびるを震わせて反論する優留に対して、三男坊はいたって冷めている。


「さあね。俺は知らない。だいたい縁談話をとり仕切ってたのは俺じゃなく、家の者だからね」


私は悟った。
三男坊は、優留ともう見合いする気がないのだということを。


「ふざけるな!!嘘つくな!」

優留は、錯乱している。



私は優留の腕をつかんだ。


「落ちつくのだ。こんなところで騒ぎ立てるのは、非常識だ。今日のところは引き上げるぞ」


事務所内の人間もこちらのやり取りに注目している。

優留を止めなければ。

これ以上、優留に恥をかかせるわけにはいかない。



「離せ!話は終わってない!」

優留は、私の手を振りほどこうと、手を引いた。

「優留!」

私は、つかんだ優留の手首を離しはしない。

優留はなおも振りほどこうと力をこめるが、びくともしない。


「離せよ!」

私の力に優留も驚きを隠せず、つかんでいない反対側の手をつかい、力任せに私の手から逃れようと必死だ。


私は優留の動きを制圧したまま、優留に強く言い放った。

「帰るぞ!」


振りほどけないことを悟り、優留から力が抜けた。


「なんなんだよ、ちくしょう…!」

優留は、下を向き、悔しさに顔をゆがめ、小声でつぶやいた。


いたたまれない気持ちがした。
優留の手首をつかんでいた力をゆるめた。



「離せ。帰る」


優留は、私の手を振り払い、まっすぐ出口に向かった。

私は、未礼に視線を向けた。

未礼は、うなずき、すぐさま優留のあとを追う。


二人の姿が、自動ドアを通り抜けた。



私は、三男坊の前まで歩みより、深々と頭を下げた。