「いいよ、下がって」

三男坊は、受付嬢と警備員に気さくに合図する。

受付嬢と警備員が、戸惑いながらもこの場をから離れようと一礼した姿を見届けると、
私と未礼に視線を向け、ニコリと微笑んだ。


つられて私と未礼もぎこちなく会釈した。


思わず凝視してしまうくらい、余裕に満ちた男だ。



「松園寺優留ちゃん?いったい何の用かな?」

三男坊が、優留に尋ねた。




「なんかスゴイ、オーラだね。ただ者じゃない感じ」

未礼は、尊敬と怯えをはらんだ瞳で、私の肩のあたりの服をつかんだ。

「さすが、といったところか」

私と未礼は、遠巻きで三男坊と優留のやりとりを眺めた。



「何の用、じゃねぇよ!!」

落ちつきはらった三男坊に対して、優留は、いまだ興奮覚めやらぬといった感じで、三男坊を睨みつけた。



「断った理由をわかるように説明しろ!」


断った、理由?


「さっき、うちのジイさんに言われたんだ。
あんたが、私との見合いを断ってきたって」


「ああ、そのことね」

三男坊は、なるほど、といった表情で小刻みにうなずいた。



優留と、亀集院家との見合い話は破棄された、ということか。

いったい何故だ?


兄の誘拐事件で延期になったとはいえ、いったんは日取りまで決まっていた縁談ではないか。
それが何故…。


私は、息をするのも忘れ、優留たちの会話を聞きとることに集中していた。



「話を受けておいて、一度も会わずに断るなんて、どういう了見かって聞いてんだ!」


「理由を知ってどうするの?」

「撤回してもらって、見合い話を進めてもらう」


優留は、見合いの実現を、本人に直談判するため、ここに来たのか。

しかし、三男坊は、首を縦にふる様子はない。


優留のイラ立ちが増していくのは目に見えてあきらかだ。


「何だよ、ひょっとして怖じけづいたのか?!」

優留の挑発的な言葉に、さすがの三男坊も気を悪くしたのか、吐き捨てるようなため息をつき、言った。


「…あのね、はっきりいうと、断ったのは俺じゃないよ」